昨今の社会情勢の変化に伴う原材料価格の高騰や円安による海外からの輸入コスト増加を受けて、さまざまな品目の値上げが相次いでいます。2024年も値上げラッシュは継続しており、食品や光熱費だけでなく、ソフトウェアのライセンス費用にも値上げの波が押し寄せています。
値上げはいつまで続くのか、値上げに対して何か打つべき手はあるのか?この記事では相次ぐライセンス値上げの背景と対策についての考え方を紹介します。
目次
Microsoft 365ライセンス価格改定、その背景は?
2023年12月6日、日本マイクロソフト株式会社から法人向けMicrosoft 365のライセンスおよびサービスの価格改定を行うことが発表されました。企業の固定費を直撃し影響範囲が広いことから大きな話題となりました。
今回の価格改定には日本円の為替相場の変動が影響していることが言及されています。同社がソフトウェア製品やオンラインサービスの現地価格の影響を元にして地域間の価格の整合性を確保しており、今回の価格改定で米ドルの水準に近づいた実勢価格に調整した経緯が説明されています。つまり今後も為替影響や米国情勢のあおりを受け続けることと、付随してクラウドサービスのサブスクリプション価格も変動すると見て置くべきです。
Microsoft 365の価格改定の推移
Microsoft 365の値上げは今回が初めてではありません。2011年にサービス開始以来、新機能追加やセキュリティ強化に伴い、段階的に値上げが行われてきました。Microsoft 365は、個人ユーザ、ビジネス利用者、教育機関など、さまざまなニーズに応えるラインナップが展開されていますが、今回はビジネスユーザ向けで利用企業数が多い上位3プランMicrosoft 365 Business Premium、Microsoft 365 Business Standard、Microsoft 365 E3と、古くからあるOffice 365 E1の4プランについて、サービス開始から今までの価格改訂の推移をまとめました。
法人向け Microsoft365 主要プランの値上げ推移
プラン | 2011年 6月 |
2015年 12月 |
2020年 4月 |
2022年 3月 |
2023年 4月 |
2024年 4月 |
リリース~2024年4月の値上げ率
|
Microsoft 365 Business Premium(旧Microsoft 365 Business) | 2,180円 | 2,180円 | 2,390円 | 2,750円 | 3,298円 | +51% | |
Microsoft 365 Business Standard | 1,360円 | 1,360円 | 1,360円 | 1,560円 | 1,874円 | 0.38 | |
Microsoft 365 E3(no Teams)+ Teams | 3,480円 | 3,910円 | 4,500円 | 5,846円 | 0.68 | ||
Office 365 E1(no Teams)+ Teams | 800円 | 870円 | 870円 | 1090円 | 1,250円 | 1,948円 | 1.44 |
この5年で51%も値上がりしたMicrosoft365Business Premium
一般企業向けのプランMicrosoft 365 Business Premiumは、2024年4月からは月額3,298円です。2020年4月時点の月額2,180円と比較して5年間で51%値上がり、この5年間で1.5倍の価格になっています。同じくMicrosoft 365BusinessStandardは、2024年4月からは月額1,848円です。2020年4月時点の月額1,360円と比較して5年間で38%値上がりしました。
この5年間の値上がり率をまとめると下記になります。
プラン名 | 値上がり率 |
Microsoft 365 Business Premium | +51% |
Microsoft 365 Business Standard | +38% |
Microsoft 365 E3 | +168% |
Office 365 E1 | +144% |
日本マイクロソフト株式会社は今後も半期ごとに製品価格を見直す方針を明言していることから、今後もさまざまな理由で値上げされる可能性があります。
Microsoft 365以外のSaaSも値上がり
ライセンス価格の値上げはMicrosoft 365に限りません。今回に先立つ2023年にはSalesforceが7年ぶりにCRM製品を平均9%値上げし、これを皮切りにトレンドマイクロ、Adobe、HubSpotなどが価格改定を発表しました。値上げの波は国産サービスにも及んでいます。
直近主要SaaS製品の値上げ
社名 | サービス名 | 値上げ理由 |
HENNGE | クラウドセキュリティサービス「HENNGE One」 | 原価高騰や円安進行などの要因による事業環境の大きな変化を受け |
トレンドマイクロ | トレンドマイクロSaaS製品全般 ウイルスバスター ビジネスセキュリティサービス (VBBSS他) |
ここ数年の世界的なインフレによるコスト上昇 |
大塚商会 | 「たよれーる(保守サービス)」 | 本サービスを提供するためのIT機器、電気料金や人件費などの高騰 |
Adobe | Creative Cloud個人版プラン | 為替レートの変動に対応するための調整 |
ロゴスウェア | 教育SaaS製品 | 昨今の円安基調によるクラウドサーバー利用料金の増加、社員の賃金の引き上げ、さまざまな物価の上昇 |
アルファサード | PowerCMSクラウド | 為替変動や固定費の上昇など諸般の事情により |
マネーフォワード | マネーフォワード クラウド | 各種法令改正への対応や昨今の物価上昇に伴う開発費の増加を受け、サービス品質向上・安定稼働を目的として |
クラウドサーカス | デジタルマーケティングSaaS『Cloud CIRCUS』 | サーバー費用の増加、エンジニアの確保難易度の上昇、人件費を含む運営管理コストの増加 |
フリップロジック | クラウド型販売管理サービス「FLAM」 | 最近の基盤利用料の高騰により、サーバーの維持費やネットワーク設備のコストが急速に上昇 |
READYFOR | クラウドファンディングサービス「READYFOR」 | 昨今の社会情勢の激変に伴うインフラコストの増加や人件費高騰など |
ピーエスシー | Coo Kaiサービス | 昨今の物価上昇や為替の著しい変動、各種インフラコストの上昇 |
(2024年5月現在、サイバーソリューションズ調べ)
SaaSなどの値上りは今後も続くと思われる
近年の値上げ要因の1つに円安の影響がありましたが、今後も円安は続くことが想定されています。円安の要因として、日米の金融政策の違いから生まれる金利差に関する議論が多いですが、最近はデジタル赤字の拡大も注目されています。
多くの日本企業が、データストレージやアプリケーションをGoogleやAmazonなど海外の巨大ITのクラウドサービスに依存していることから、海外企業へのドル建ての支払いが膨らむことが円安の大きな要因となっています。デジタル赤字は解消する見込みがないことから、円相場を下押しし続けます。つまり海外企業にサービス利用料を支払うためには、持っている円を売ってドルに換える必要があることから、国内における海外のサービス利用が活発になるほど円売り加速とともに円の価値が下がっていき、円安 (ドル高) が進みます。さらに国際収支が赤字の状態になると、為替相場において円安の進行がさらに加速していきます。
一方で国産SaaSにおいては、人件費の増加を理由にした価格改定の動きがあります。昨今の物価高騰を背景にして2023年には約30年ぶりの高水準の賃上げが実現しましたが、物価上昇に見合う賃上げにはまだ追いついておらず、引続き賃上げとその原資を確保するための適切な価格転嫁が推進されています。したがって国産SaaSにおいても、引き続き価格上昇が発生すると見ています。
ライセンス値上げへのユーザ企業の反応
2023年4月のガートナー調査結果では、SaaS契約者の不満が増大している傾向が8割を超えています。不満の具体的な内容については
「ライセンス/サブスクリプション料金の値上がり」や「サポート料金の値上がり」に対する不満が最も多く、次いで「サービス・レベルが不透明」やベンダーによる「突然/一方的な契約ポリシーの変更」への不満が挙げられました。
ライセンス値上げへ取るべき4原則
企業は値上げのリスクに対してどのような対策を取るべきでしょうか?典型的な対応としては『回避、軽減、移転、受容』の4つの観点による短期的・長期的な対策が挙げられます。
出典:ガートナー2023年1月リリースより当社作成
この中でガートナーは「値上げを拒絶し続けることだけが唯一の解ではなく、ベンダーに高品質な製品サービスの提供を続けさせるために、時に、一定の値上げを受け入れる必要もある」とし、一方で「説明のつかない大幅な値上げに対しては、合理的な説明を追求する姿勢を、ベンダーへ示すべき」としています。
しかしガートナーの提言で最も注目したいのは「2024年以降も海外ベンダーによる価格改定のリスクが継続することを見越し、長期的に効果が持続する対策も講じる必要」を提言している点です。ベンダーへの適切な交渉や情報収集を行うとともに、経営層や経理や財務部門に対してITに関する理解を促しながら、中期的な自社のシステム構築のビジョンを描き、会社全体で議論をしていくことも必要になります。
必要な機能を適切な価格で導入して Microsoft 365 の セキュリティ強化を
またコスト対策の選択肢の1つとして知っていただきたいのが、セキュリティやアーカイブなどの周辺機能をサードパーティ製品にする方法です。例えば冒頭に挙げたMicrosoft 365の上位プランを契約する理由として多いのが、セキュリティの強化です。
現在のビジネスメール環境には、ランサムウェア感染・ウイルス・なりすましメール・迷惑メール・フィッシング詐欺・ビジネスメール詐欺(BEC)など数多くのセキュリティの脅威があり、これらのセキュリティリスクへの対策として、Microsoft 365標準のセキュリティサービス「Exchange Online Protection」だけではなく追加のMicrosoft Defender for Office 365が提供されるMicrosoft 365 E3以上のプランを選択し、セキュリティに対して十分に備えようとする企業は少なくありません。
一方でMicrosoft 365 E3の2024年4月からの価格は月額5,059円、年間6万円超と、費用面で大きな負担がかかります。この場合、サードパーティ製品を組み合わせて特定のセキュリティ機能を必要な分だけ導入することで、適切なコストでより堅牢なセキュリティ環境を実現することができます。
自社に必要な機能とコストを選択できるメールセキュリティ対策
サイバーソリューションズが提供するCloud Mail SECURITYSUITE(CMSS)は、月額200円からMicrosoft 365のセキュリティを強化することができます。
Cloud Mail SECURITYSUITEの機能はMicrosoft 365上位プランが提供する
- アンチウイルス/アンチスパム
- 未知の添付ファイルの検査
- メール本文のリンク、添付ファイルのリンクの検査
- フィッシング詐欺対策
に加え、グローバル展開するMicrosoftのサービスには不足している日本のビジネスならではのセキュリティニーズに応える
- 受信時のPPAP対策
- 送信時のPPAP対策
- 情報漏洩対策
- 誤送信対策
などをカバーする機能を持っています。
Microsoft365上位プランとCloud Mail SECURITYSUITEの比較
プラン | ユーザ月額料金 | アンチウイルス、アンチスパム | 未知の添付ファイル検査 | メール本文リンク、添付ファイルリンクの検査 | フィッシング詐欺対策 | 受信時のPPAP対策 | 送信時のPPAP対策 | 情報漏洩対策 |
ExchangeOnline Protection (EOP) |
標準機能 | ✓ | ||||||
Microsoft 365 E3 (no Teams) |
5,059円 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | |||
Cloud Mail SECURITYSUITE 受信対策プラン |
200円 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | |
Cloud Mail SECURITYSUITE 送受信対策プラン |
400円 | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ | ✓ |
Cloud Mail SECURITYSUITE(CMSS)を導入することでコストを抑えつつ、Microsoft 365を安全に運用する選択肢としてぜひご検討ください。
株式会社レオパレス21様 導入事例
7,000アカウントのMicrosoft 365メールセキュリティをオンプレからクラウドへ移行し運用負荷を低減